2017年12月18日、建築士法で定められた設計図書を電磁的記録(電子データ)により作成し保存するための法的要件等を整理した「建築設計業務における設計図書の電磁的記録による作成と保存のガイドライン」がJIIMA(公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会)から公開された。
建築業界ではCADで設計業務を行っている現在もなお、完成図書としては書面による作成・保存が主流なので、このガイドラインの登場により、設計図書の電子的な作成や保存が進み、業務プロセス改善やコスト削減、確認申請電子化の拡大等が期待されている。
本コラムの第1回目は、このガイドライン誕生までを振り返ってみたい。
私とJIIMAとの出会いは、2011年の秋、前職の(株)セイコーアイ・インフォテック在職中に自ら企画し開発を指揮していた「TerioCloud」をe-ドキュメントJAPANに出展したことに遡る。TerioCloudは当時登場したてのiPadに電子図面を表示し、メモ書きや写真撮影、情報共有を行うクラウド型サービスで、紙図面を現場で広げていた当時としては画期的なサービスであった。
こういったサービス開発を行っていたことや、自身が一級建築士であるということもありJIIMAでは「建築WG」への参加を勧められた。当時建築WGでは、社団法人日本建設業連合会発行の建設業法に対応するための「建築工事における書類・図面の電子化 /保存ガイドラン」作成の支援を終えたところであった。
建築WGでは次のテーマとして、e-文書法周辺での建築分野における課題の把握に努めていたが、大半の建築士事務所において、建築士法で定める設計図書の保存が紙で行われていることに2012年頃から疑問を持つようになった。
その後、電子化が進まない一つの要因として一般財団法人建築行政情報センター(以下「ICBA」)が公開している下記の「確認・検査・適合性判定の運用等に関するQ&A」が大きく影響していることを把握した。
質問番号108(公開日2007/08/22) |
【質問】建築士設計事務所において保存すべき設計図書を、PDFファイルで保存することは可能でしょうか? |
【回答】原本性を担保するという観点から、PDFファイルについては、以下の2通りが想定されます。 ①CADによって作成された設計図書(電子データ)をPDF印刷した場合、当該PDFファイルによる保存は認められません。 ②紙面に打ち出された設計図書をスキャンした場合、当該PDFファイルによる保存は可能です。なお、マイクロフィルムによる保存は従来より認められているところです。 |
このQ&Aの【回答】①だけを読むとPDFファイルによる保存は認められていないかのように読めるが、設計時の要件や法的な要件の説明がなく、ある想定環境下ではPDFファイルによる保存は認められないとする回答ではあるが、ほぼすべての建築士事務所がPDFファイルによる保存はすべて認められないと誤解している状況であった。建築WGではこの課題解決策として、建築士法とe-文書法に関連する設計図書の電子化ガイドラインの必要性を強く意識するようになり、建築関係団体へガイドライン発行を勧めたが進展は見られなかった。
2014年12月、ICBAから建築確認検査電子申請等ガイドラインが公開され、指定確認検査機関側から見た申請時に添付する設計図書の各種要件が示された。この動きを受けて2015年2月、私はJIIMA建築WGとして建築士事務所側から見たガイドラインの作成を決意し、執筆を開始した。
2016年1月には現在のガイドラインの骨格は出来上がり、建築関係団体に発行に向けての協力依頼を開始したが、すでに紙文化で業務が回っていることや、e-文書法の理解不足等から、関係団体からの賛同はなかなか得られず発行に向けた目処は一向に立たなかった。そこで8月に国土交通省住宅局建築指導課にガイドライン発行の必要性を訴えつつ、JIIMAが発行元事務局となり、建築設計に関する各業界団体推薦の委員で構成する「検討会」による発行を目指した。
2017年2月検討会による発行に向け、国土交通省の支援表明が転機となり、6月より座長と17名の建築士事務所、ゼネコン、住宅メーカー等を代表する委員、国土交通省を含む4名のオブザーバーからなる検討会を開始するに至った。以後検討会での議論を反映してガイドライン原案を大幅に増補・改定しながら、12月に完成し公開するに至った。
ガイドラインの発行を決意してから3年近い月日を要したが、関係者の方々からの貴重な意見や現場の声、国土交通省からのアドバイス等と、各建築関係団体からの賛同をいただき、当初計画をはるかに上回る内容を盛り込み発行することができた。
(1)終わり